学ぶとは、マネることである。

英語教師・ばーばらの『英語教育学の大学院では何を研究しているのか?』

   

はじめに

大学院で英語教育学を勉強していたと周囲に話すと、「ところで、大学院ってどんなところなの?」とたずねられます。たしかに、大学については入学から卒業までのプロセスの想像がより付きやすいもの。勉強の仕方や試験の手続きなども、理解しやすいです。

ところが、大学院となると、その中身についてのイメージが湧きにくいもの。入学準備にあたる勉強や手続き、入試内容もはじめて見る人にとってはわかりにくいでしょう。そこでこのコラムでは、英語教育学を大学院で学ぶことについて、入学準備段階から入学後の学修内容、研究活動の実際などについてお伝えします。

英語教育学は、どんな大学院で研究できるか

あなたが国内の大学院で英語教育学を学びたいとなれば、真っ先に候補に挙がる進学先は教育学研究科となります。教育学研究科は、教育学部がある大学であれば設置しているのが多いです。

それ以外ですと、外国語学研究科や文学研究科など、人文社会科学系の大学院で英語教育学が学べます。ただし、それらの大学院研究科を志願する際は、かならずカリキュラムや所属する教官の専門分野などを確認しましょう。その一つの手段として、学生募集要項や大学院案内を参照することをおすすめします。

英語教育学の大学院入試は、何をするのか

大学と同様、大学院にも入学試験があります。試験の時期は、9月〜10月か1〜2月。出願書類の提出締め切りは、試験の1〜2ヶ月前が目安です。ただ、これらの日程はあくまでも参考となるため、受験する際にはかならず募集要項を確認してください。

試験科目はふつう、筆記と口述が課されます。まずは筆記試験。英語教育学分野は、外国語と専門科目です。私が受験・入学した2つの大学院(茨城大院、筑波大院)の外国語試験は、どちらも英語のみ。大学院入学後に求められる英語読解力が試されている出題内容で、英語長文を読み設問に答える問題や和訳問題、パッセージの要約問題が取り上げられていました。専門科目の筆記試験は、専門用語の説明やある学説に関する考察をまとめる論述問題が出されました。問題数は外国語科目よりも少なかったですが、書く分量が多く、制限時間内に答案をまとめるのが大変だった記憶があります。

口述試験は、いわゆる面接です。大学院進学の理由はもちろんのこと、出願の際に提出した研究計画書の内容について質問されます。研究計画書とは、大学院・研究科が指定する書式がありますが、受験者が希望する研究内容とその活動計画を文書にまとめたものです。この書類が、大学院の合否だけでなく、今後の研究活動に与える影響はけっして小さいものではありません。大学院試験勉強と並行して計画書をまとめるのは困難を極めますが大学院で学ぶ意義をより明確にできます。私の場合は、進学希望先の大学院生の先輩やゼミ生に、複数回にわたり研究計画書に対するフィードバックをもらい、出願書類を仕上げました。

どういう人が英語教育学で大学院に進学するか

まず挙げられるのは、大学卒業後の学部生。進学先の大学院・研究科が学部と同じ大学である場合、学部での研究である卒論をさらに深めたいという傾向が目立ちます。他大学の大学院進学ですと、ある先生の論文指導を受けたい、あるいは別の切り口で研究をしたいなど、その大学院・研究科で学ぶ強い動機づけがあるようです。そういう学生の中には研究者志向が強い人もいて、修士課程(または博士前期課程)を経て博士後期課程まで進学します。また、修了後の進路希望が学校教員である人で、専修教員免許を取得したいがために大学院に進学するというケースも、少なくありません。この傾向は、実践演習の場が充実している教育学系の大学院に見られます。

さらに、教育学系の大学院ですと、小学校・中学校・高等学校の現職教員の入学もあります。所属校が公立学校の場合、その多くが各自治体の教育委員会からの派遣研修扱いです。その際、1年目は他の一般大学院生と同じように授業に出席し、課題をこなします。その間、たいていは所属校への勤務は免除。しかしながら、2年目は所属校への勤務と並行し、週1日の通学で修士論文完成・提出を目指していくのです。

大学院では研究以外に何をするのか

大学院でするのは研究だけではありません。まず、課程修了で必要な単位取得のための授業。修士課程(博士前期課程)ですと、修士論文の合格のほかに、大学院での2年以上在学・30単位以上の修得が求められます。ふつう、2年次で修士論文作成に専念するため、1年次で修了に必要な単位数の授業を取ることが多いです。

学内での研究活動の中心は、指導教官のゼミへの参加でしょう。ゼミの発表はおもに、自分の研究の進捗状況の報告です。それに付随して、先行研究論文のレビューの発表や専門書の輪読もします。

学外に目を移すと、国内外で開催される学会への参加・発表や学会誌への投稿論文執筆となります。修士レベルでの学会参加ですと、国内が多いです。その際、発表使用言語は日本語・英語どちらでもよい学会もあれば、英語を必須とするところもあります。前者の場合だと、日本語で発表する人のほうが多いです。

また、論文執筆での使用言語も、日本語・英語のどちらかになります。修士論文は英語教育学分野で執筆する場合、たいていは英語です。学会誌への投稿となると、それぞれの学会規定がありますが、大半の日本国内英語教育系学会のものは英語となります。『TESOL Quarterly』や『Applied Linguistics』など海外の英語教育学系学会誌ですと、言うまでもありません。

英語教育学では、どういう研究テーマがあるのか

英語教育学の研究テーマとして、まず挙げられるのはリーディング・リスニング・スピーキング・ライティングの4技能分野。どの分野でも、指導法や学習者のパフォーマンス分析を考察します。さらに細かく見ていくと、シャドーイングや音読はリーディング分野で、ディクテーションはリスニング分野での扱いです。スピーキング分野ですと、生徒の英語による発話の発達過程を追っていく研究がよく取り上げられます。ライティング分野での研究内容は、英作文によくある文法・語法上の間違い分析やエッセイの草稿から書き上げまでの過程追跡といったものなどです。

ライティング分野の中でも、私が大学院生として研究テーマに取り上げたのが、中学・高校におけるライティング指導法です。まず、学部卒業後すぐに進学した大学院での修士論文は、中学校の英語授業におけるコミュニケーション活動としてのライティングについてまとめました。その当時はオーラルコミュニケーション全盛期。「ライティングも、コミュニケーションの一つでは?」という素朴な疑問が、論文の原点だったと思います。その後、公立中学校勤務を経て進学した別の大学院では、ライティングにおけるつなぎ言葉の指導が学習者のパフォーマンスに影響されるかどうかを検証しました。

英語教育学の研究テーマは、4技能だけとは限りません。言語テスト分析では、学習者のパフォーマンスの測定法の妥当性を、統計的手法を多用して検証します。動機付けや学習スタイルは、英語学習における行動に関する研究です。ここでは、認知心理学の知見が求められます。

英語教育学の先生・院生はネイティブレベルの英語力はあるか

私が見聞きした範囲でお話しすると、専門が同じネイティブの研究者と比較して、英語教育学の先生はネイティブレベルの力はあると思います。英語による学術活動は、ネイティブの研究者に引けを取りません。そういう先生は、専門分野の講義を英語で行いますし、外国人研究者と口頭・文書による英語でのやり取りも円滑です。さらに、サバティカル(研究休暇)で海外の大学で研究する際、現地での生活に困らない日常会話はこなせています。比較対象および英語の使用場面は限定的ですが、英語教育学の先生の英語力は高いものと言えるのです。

院生間で見ると、英語運用の面で差があります。それが顕著に現れるのが、英語によるディスカッション。帰国子女や海外の大学・大学院留学経験者は、英語の流暢さもさることながら、話の展開方法が論理的です。議論へのアプローチにも長けています。その一方、国内のみでの学習で英語力を磨いた院生は、英語でのアウトプットに苦手意識を持っていることが少なくありません。はじめは発言できずに終わってしまうものの、回数を重ねるうちにディスカッションの組み立て方にも慣れ、帰国子女・海外留学経験者に劣らないようになってくるのです。

さいごに:大学院で学ぶとは

もし、「学部と大学院の違いとは?」とたずねられたら、私の答えはこのようになるでしょう。「大学院は、専門的に学問を修める場所だ」と。学校教育法にも規定されるように、大学院の目的の一つは学術の理論・応用の追究です。修士課程(または博士前期課程)の2年間は、各自の専門領域を深く研究するという、学部ではけっして得られない絶好の機会。博士後期課程となれば、その内容はより高度になり、最終的には学位論文という形でまとまることもあります。

しかしながら、学問を究める道のりはけっして楽なものではありません。その厳しさ・苦しみを知るからこそ、一つの専門分野に特化し、研究内容を深める喜びはとても大きなものとなるのです。

ばーばら氏のコラム

英語教師・ばーばらの『高校・中学の英語教師になる方法と教師の英語力の実態について』
英語教師・ばーばらの『英語教育学の大学院では何を研究しているのか?』

ばーばら
筑波大学大学院修了の高校英語教師、フリーランス翻訳者。大学は教育学部英語科に所属し、大学院では英文ライティングの指導方法を研究していた。現在は英検1級合格を目標に自身の英語学習を続けている。 詳しいプロフィール / 記事一覧

 - ピックアップ記事