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【ラブクラフト】第4回 アウトサイダー(The Outsider)の客観的世界観

      2019/09/21

ラブクラフトの短編を紹介するコーナー、今回は『アウトサイダー(The Outsider)』をご紹介します。ラブクラフトの短編の中でも傑作と言われることが多く、エドガー・アラン・ポォの影響を強く受けているともされるこの作品。ページ数も非常に少なく、ラブクラフト作品にあるようなクトゥルフ的専門用語もないため、初めての人も楽しく読める作品です。むしろ、ラブクラフトに精通していない人の方が楽しめる作品かもしれません。

ラブクラフト短編集4

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物語のあらすじ

生まれたときから、どことも知れない城の中で育ってきた”彼”。”彼”が持つ夢は、いつか外の世界を見てみたいというものでした。しかし、城を取り囲む森のために、彼はその外の世界を見ることができないのです。平和に過ぎていく、まどろみのような時間。夜になると襲ってくる、強烈な恐怖。孤独に過ごす、城の中での生活。もしかすると、城にある一番高い尖塔を登れば、そこから森の向こうの景色が見えるのではないだろうか。そう思いながら、何となく日々が過ぎていく中、ある日彼は、ついに塔を登ってみることを決意します。

しかし尖塔は崩れ掛かっていて危険であることは間違いありません。もしかすると戻ってくることができないかもしれない、そんな恐怖と戦いながら、彼は一歩を踏み出し、彼はついに塔の頂上付近にまで辿り着くのですが——。

原文の難しさ

前述したように、物語の長さとしては非常に短い部類で、クトゥルフの呼び声や宇宙からの色などを読みながら長いと感じた人でも苦でないほどの短編となっています。いわゆるショートショートや掌編小説と言っても過言ではないでしょう。

また、ラブクラフトにありがちな冗長な文章や難解な語彙なども少なく、ラブクラフト初心者にも優しい難易度になっています。物語も基本的に一本筋で、特に複雑なプロットというわけでもないのがありがたいところです。ただ、ラブクラフトよりももっと古い作家であるポォが意識されているためか、少し古めかしい言い方が多いかもしれません。そういった意味では、原文で読むには少し難易度が高い作品であるとも言えます。

The Outsider

ただそれでも、現代の英語と全く違うということはありません。むしろ、少し英語に慣れている人であれば、これくらいの難易度の文章を精読するように読みこなすことで、読解力が飛躍的にアップすることも期待できるでしょう。小説全体の短さもあってテンポが良いため、精読を用いた勉強方法の教材としても使いやすい一編です。

ラブクラフトという作家

一般的にはクトゥルフ神話と呼ばれる神話体系を生み出し、チープな物言いをするなら『化け物をたくさん生み出した』作家と言われるラブクラフトですが、その本質はモンスターとの戦いやモンスターの恐ろしさではなく、それと向き合ったときの人間の弱さ、虚無感、無力感にあります。そしてそれは、例えばクトゥルフのようなモンスターとの出会いが無ければ描けないものでもありません。時に、それ以外のものとの出会いにより描かれることもあるのです。個人的には、この作品はまさにそういった類いの物語であるように感じます。

特にこの物語は、そうした作品の中でも独特の立ち位置を確立しています。それは、この物語の後半で主人公である”彼”が遭遇することになるある恐怖、その描写が他の物語とは完全に異質なものだからです。そしてそのときに”彼”が感じる感情とはどういったものなのか。それが物語の序盤の独白とリンクするとき、この掌編がいかに文学的作品であるかが再確認されるのです。

それがどういった恐怖で、”彼”にとってのどういった体験であるのかは、実際に読んでご確認頂きましょう。

冒険譚か、それとも寓話か

ラブクラフト作品には、冒険譚としての性格を帯びたものも多く存在します。クトゥルフの呼び声もそうした短編のうちのひとつで、そうした冒険の果てに待っている圧倒的な恐怖や絶望、それと対峙したときに”ただの人間”に何ができるのかといったところがポイントになっています。

この『アウトサイダー』も、どちらかと言えば冒険譚としての性格が強い掌編小説と言えます。どことも分からない城で育った主人公が、森の向こうの外の世界を一目みたいと高い塔を登るシーンはまさしく冒険活劇と言えるでしょう。果たしてその先には何が待っているのか、結末に胸を躍らせながら、読者も(もしもラブクラフトに精通しているなら黒い期待と共に)ページを捲っていくことになります。

一方で、この物語は寓話的に解釈することもできます。『アウトサイダー』とは、『余所者』や『外の人間』というような意味です。そうしたタイトルの意味を含めて”彼”の行動や”彼”が見たもの、そして彼が城の外で初めて出会った存在と、その結果訪れた恐怖を踏まえてもう一度考えてみると、もしかするとこの物語自体が何かのメタファーのようなものなのではないか、というような気もしてきます。

純粋な文学作品として

この作品はラブクラフトの比較的初期の作品でもあり、クトゥルフ神話などとも強くリンクしていない作品であることは既に述べた通りです。だからこそ、一話完結の短編として、ラブクラフトが何を思ってこの物語を綴ったのか、どういったテーマがそこにあったのかということを考えるのにぴったりの作品であるとも言えます。

また、この作品から逆行して、エドガー・アラン・ポォの作品に遡ってみるのも良いかもしれません。ラブクラフトがどういった影響を受けていたのか、その系譜がきっと見えてくるでしょう。

あるいはこのアウトサイダーが、後の作品の何に影響を及ぼしているのか、それを考えるのも面白いかもしれません。

翻訳の面白さ

ポォを意識した文体であることから、主な翻訳は文語体になっていることが多いようです。しかし、私がこの作品を翻訳したときには、敢えて口語体に近い翻訳としました。それはなぜでしょうか。

その理由は、この物語のプロットにあります。口語体で翻訳することで、この物語のある部分の効果を高めることができると考えたのです。では、その理由は何だったのか。物語の面白い部分ですので、これも実際に読んで頂いてご確認頂くとしましょう。翻訳をするときにどこにフォーカスを置くかによって、これほどまでに翻訳の内容に違いが生まれるものかと、驚かれるかもしれません。

●執筆者・堂本氏の著作『ラブクラフト短編集4』に収録
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 - 堂本秋次の書斎