学ぶとは、マネることである。

翻訳者・堂本秋次が教える『翻訳家になるための語彙習得法』

      2017/12/08

英語を使う仕事がしたい、と考えたとき、翻訳家という職業が選択肢に浮かぶのは至極当然のことと言えます。では実際のところ、翻訳家になるためにはどの程度の語彙力が必要なのでしょうか。以下はあくまで個人的な見解ですが、もしかすると誰かの役に立つかもしれません。

翻訳家の仕事

翻訳家の仕事とは、ある文章を別の言語に置き換えることです。その際、できる限り原文から意味を変化させないようにすることが求められます。こうなるとその前提として、原文を正しく理解することが重要となります。その際に必要となるのは、語彙力ではなく文法力なのです。

どうして語彙力ではなく文法力か

極端な話、納期に余裕があれば、知らない単語は全て調べながら翻訳していけば良いでしょう。曖昧な知識に頼るよりもその方が確実ですし、したがって誤訳も少なくなるはずです。極論を言えば、単語力が全くなくても翻訳をすることは可能です。

しかし、文法力は別です。文法をしっかりとおさえていないと、知っているはずの単語を誤解したり、文脈と照らし合わせたときに間違った解釈をしてしまったり、あるいは原文が悪文になっている際にそれに気づけなかったりすることもあります。

最低限の文法力が無ければ、何が問題なのか、どのように解釈することが「可能」なのかといったことも分かりません。また、日英翻訳をする際、英語でのアウトプットに支障が出るかもしれません。

語彙力が不要というわけではない

もちろん、語彙力が不要というわけではありません。

語彙力は高いに越したことはないでしょう。しかしあくまで、一般的な語彙力があれば大丈夫です。一般的な語彙を越えるようなレベルについては、実践の中で少しずつ学んでいけば良いのです。具体的には、英検2級レベルの語彙力があれば、ひとまず一般的な語彙はおさえることができている、と考えて良いでしょう。

実際に翻訳者として稼働していく上で大切なこと

しかし「実践で少しずつ学んでいけば良い」とは言っても、実践、つまり実際の仕事には納期があります。そのため、悠長に一つ一つ知らない単語を辞書で引いている時間はないかもしれません。

その意味で、辞書を引く回数を少なくする意味も込めて、英検準1級や1級レベル、あるいはそれ以上の単語力を自分の標準的な単語レベルとして身につけておくと強みになるでしょう。

そのための勉強としては、まず自分がメインで活動したい翻訳分野に関する単語を覚えること、そして実際の仕事や、普段の英字新聞や小説の読書の中で知らない単語が出てきたらそれを確実に覚えてしまうことです。

単語を覚える上での心構え

翻訳者にとって文法力はそのスキルの要であり、語彙力は上限の無い能力であると僕は考えています。どれだけの語彙力からでもスタートできる一方、どれだけの語彙力があっても充分ではないのです。したがって、例えば英検1級の語彙力があったとしても、その時点で単語学習を止めて良いということではありません。

専門的語彙や時事的な単語、頻発する固有名詞や人名も含め、知らない単語と出会ったら常に吸収する心構えでいきましょう。新しい単語に出会ったら、「これでまた知らない単語が一つ減った」という風に考えると良いでしょう。

また、特に日英翻訳をする際には単語の取捨選択が重要になることもあります。例えば、objective、attempt、goal、aimなどはどれも「目的」と訳すことができるがそれぞれのニュアンスは異なる、といったように、それぞれの単語のニュアンスや意味合い、イメージについて敏感であることも重要です。これは日本語の言葉についても同じことが言えます。

重要なのは、学ぶことを常に楽しむことです。どれくらいの単語があれば充分か、ということではなく、もっと新しい表現や単語を知りたい、といったような前向きなマインドセットを確立すること、それが翻訳者としての第一歩と言えるのかもしれません。

堂本秋次
実務翻訳者、プロマジシャン。英検1級、国連英検A級、TOEIC965を保有。大学時代は、ネイティブスピーカーの教授の指導のもと、言語学を専攻していた。医学、自然科学等を専門とする多芸多才な翻訳者。 詳しいプロフィール / 記事一覧

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