学ぶとは、マネることである。

元・国語教師 のありの『洋書を読む意義、またその効能について』

      2017/03/17

なぜ洋書を読むのか、個人的な推測と考察を記します。

情報化社会で情報を先取りする

最先端あるいはマニアックな情報を得ることに、洋書を読む意義を見出すことができます。

ノーベル物理学賞を受賞した益川敏英さんは、英語嫌いで有名です。論文は共同研究者が英訳なさるそうです。英語の論文を読むことは何とかなる、といった旨の発言をされていたのが印象に残っています。どれほど英語が嫌いで日本語で論文を書き続けていたとしても、その分野の先駆者であれば英語で論文を読むことからは逃れられないのだな、などと考えさせられました。いちいち邦訳を待っていたのでは時代に取り残されてしまうでしょう。スピードがものを言う現代社会にあっては、好む好まざるにかかわらず、洋書を読まなければならない人々がたくさんいます。

またマニアックな分野に興味を持てば、洋書しか手に入らないこともあります。個人的にはまっている占星術にしても、鏡リュウジさんや石井ゆかりさんといった名だたる占術家は、洋書から学ばれていることがわかります。どの分野であれ一流の人が語学をたしなんでいることが多いのは、彼らが洋書から情報を得なければならなかった背景があるかもしれません。

原書の世界に浸りこむ快感と耽溺

しかし私が洋書を読む理由を突き詰めますと、結局はその世界が好きだから、という結論に達します。

現実的な理由はもちろんあります。例えば、和訳本がない場合です。今読んでいるエリザベート・ギルバートさんの『Big Magic: Creative Living Beyond Fear』は、邦訳版が出版されていません。まさに上記の、嗜好がマニアックであるために洋書から情報を得るしかないパターンです。『食べて、祈って、恋をして』が世界に与えた衝撃を考えますと、マニアックという言葉は適切ではないかもしれません。しかし需要がもう少し多ければ、邦訳版が出版されているはずです。乏しい語学力ながらもちびりちびりと原書を読むほかないのです。

Big Magic: Creative Living Beyond Fear (Ome a Format)

しかしもし邦訳版が出ていても、彼女の著作に関しては原書で読むことに挑戦していただろうとも思うのです。というのも彼女の短編集『巡礼者たち』を邦訳で読んだときは、さほど感銘を受けなかったのです。しかし『食べて、祈って、恋をして』については原書『Eat, Pray, Love』で読んだので、彼女の世界観に強く共感したのでした。邦訳を読んでいたならば、彼女の機知に富んだ言い回しや深い洞察力を捉え損なっていた可能性があります。おそらく彼女のファンになることはなかったでしょう。

Eat, Pray, Love: One Woman's Search for Everything

この感覚は、洋画を吹き替えで観たときの違和感に近いと推測します。吹き替え版の映画を鑑賞していると、景色や俳優ははっきりと見えるのだがその世界観がわかりにくい、といった感覚に陥ることがありませんか? 語学力のあるなしは関係なく、字幕版で観た方が、俳優の生の感情に触れやすい気がします。(しかしあくまで感覚の問題ですので、ここでは深追いしません。したがって、「いや、吹き替え版の方が優れている」といったご意見はここではお受けしません。優劣の問題ではなく、のありの個人的感覚を述べたまでです。悪しからず。…と言いながら、)

さらにその論を展開させていただきますと、私にとって洋書を読むことは、洋画を英語字幕で観る感覚に近いのです。日本語字幕版より英語字幕で鑑賞する方が、映画の世界に直接没入できる気がします。帰国子女ほど英語力のない私ですが、下手に日本語を介在させるより、それぞれの映画の世界観がつかみやすいのです。(とはいえ英語力に欠けるので、同じ映画を何度も観る羽目になるのですが)

そういうわけで私が時間をかけてでも洋書を読むのは、その世界観に思いきり浸りたいからに尽きます。作者の息づかいを感じ、作者が語った通りに捉えたいのです。よって好みの作者でなかったり、ただ情報を手に入れたかったりする場合で邦訳版があれば、あえて洋書を手に取ろうという気にはなりません。

村上春樹さんはかつて、いつか読もうと思っていた洋書の邦訳本を入手したら、もちろんその邦訳本を読む、といった趣旨のエッセイを書いていらっしゃいました。村上さんほどの語学力を持ってすら、日本人が英語の文章を読むのはまどろっこしいのです。時間をかけてでもその世界を味わいたいという強い欲求がなければ、洋書を読了することは易しくないかもしれません。

結果として語学力が培われる

洋書を読む結果として、英文特有のフレーズや言い回しに慣れ、語学力が向上することは間違いありません。しかしもしTOEICのスコアを上げたい、あるいはビジネスで英語を使いたい、といった理由で洋書をお読みになるならば、たちどころにその効果を実感なさることは難しいでしょう。英語に関する具体的な目標をお持ちであれば、TOEIC対策本や、英会話のフレーズ集など、その目標に即した参考書を使って学習をお進めになることが一番の近道です。

以上を踏まえまして、欲しい情報に関してはどうしても原書しか手に入らない、もしくはその世界に没入したい、といった状況に陥れば、あなたはすでに洋書を手にしているはずです。そこには日本語では手に入れられない情報や世界観が広がっています。その世界に耽溺した結果、あなたの英語力は確実に向上するでしょう。ただし益川敏英さんのエピソードからわかるように、あくまで読解能力に関してです。リスニングやスピーキング力をアップさせたい方は、他に対策を講じる必要があることをお忘れなく。

●編集長からひとこと
18世紀に『解体新書』を編纂した前野良沢と杉田玄白は、辞書など何もない時代に医学書の翻訳にチャレンジしています(オランダ語ですが)。今やKindleでタップ一発で日本語の意味が調べられる時代に、洋書を読まないことは英語学習者として怠惰以外の何物でもありませんね。
のあり
早稲田大学第一文学部文芸専修卒。元・国語教師および日本語教師であるにも関わらず、英語講師も顔負けのTOEIC930点を独学で獲得。高い国語力と英語力を武器に高品質な記事を量産する。 詳しいプロフィール / 記事一覧

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