学ぶとは、マネることである。

翻訳者・堂本秋次が『英検1級に合格したらペーパーブックの小説を辞書なしでスラスラ読めるのか?』という素朴な疑問に答える

      2017/11/30

最初に

英検1級に合格したということは、さぞ英語が得意なのだろう、そうでなければ英検1級に合格などできるわけがない、とよく言われます。もちろん、平均的な日本人の英語力と比べれば、僕は英語ができる方なのでしょう。

しかし、英検1級を取得したからといって、それで世界が何か変わったかと言えば、大きな変化はありませんでした。それは、覚悟していたことではあったのですが。

例えば、英検1級を取得したことで「ペーパーブックの小説をすらすら読めるようになったか?」と言えば、答えは必ずしもイエスではありません。もちろん、比較的簡単な小説であれば、特に問題なく読むことができますし、ある程度単語の難度の高い小説であっても、なんとなく読みながら、分からない単語は前後の文脈から意味を推測することはできます。

しかし中には、いわゆる「合わない作家」や「合わない文体」、どうしても入り込めない世界観、小難しい語彙を濫用する作風などにより、「すらすら」とは読めない本が存在します。その上、小説で用いられるような語彙は、英検1級のために覚えた語彙とは毛色が違うものがほとんどです。

そのため、「英検1級に合格できれば小説もすらすら読めるのか」という質問の背景にある期待が、「英検1級に合格すれば小説も読めるようになるのか」であれば、答えはノーであると言わなくてはいけません。

そもそも、本を読むということは、語彙を理解できる、文法を理解できるというレベルよりも上位の行為です。文脈を理解し、行間を理解し、時には明示されていない主人公の心情まで理解しなければなりません。細かいところまで気を配れなければせっかく作者が用意した伏線を見落とすかも知れませんし、言葉遊びに造詣がなければ、作者の渾身のジョークを笑うことができないかもしれません。

本を読むことができる、読書を楽しむことができるというのは、言語力だけでは成り立たない、それ以外の部分のメンタリティを要する行いなのです。

洋書を読むのに必要なこと

では、英語の本をすらすら読めるようになるには、どうすれば良いのでしょうか?幸いにして、その答えは簡単です。

とにかく本を読みましょう。好きな作家を見つけましょう。面白いと思える本を見つけましょう。話題になっている本を読んでみましょう。少しでも面白いかもしれないと思ったら、そのまま最後まで通読しましょう。そうすることで、まず何か一つ、英語の本を読んだことがあるという実績と自信を作りましょう。

あるいはその前段階として、日本語で本を読む習慣をつけましょう。例えば普段から本と言えば漫画くらいしか読まないというのであれば、英語で小説や詩、新書などを読めるかと言えば難しいはずです。

これはもちろん、漫画を読むことが駄目であるとか、漫画が小説などに対して劣っていると言っているわけではありません。逆に漫画であれば読み慣れているというのなら、英語の漫画を読むと良いでしょう。日本のコミックが英訳されているものは相当数存在します。

そして可能ならば、日本語でも興味の持てる小説や新書を読むようにし、文章を流れに沿って理解するという脳の使い方に慣れておくと良いでしょう。それから、英語の語順でのその使い方になれていくことで、英語でも本が読めるようになります。

あるいは、例えばシャーロック・ホームズなど、邦訳が出ているものを先に日本語で読み、それから英語で読み直すなどしても面白いかもしれません。ストーリーがおよそ理解できているため、ゼロベースで理解するよりもきっと読みやすいはずです。

慣れてきたら、逆に洋書の方を先に読み、それから日本語の方を読むと、翻訳の妙技のようなものを感じられる場合もあるでしょう。もしかすると、あなたの方が綺麗な翻訳をすることができるかもしれませんよ。

堂本秋次
実務翻訳者、プロマジシャン。英検1級、国連英検A級、TOEIC965を保有。大学時代は、ネイティブスピーカーの教授の指導のもと、言語学を専攻していた。医学、自然科学等を専門とする多芸多才な翻訳者。 詳しいプロフィール / 記事一覧

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