学ぶとは、マネることである。

翻訳者・堂本秋次の『実務翻訳者になるための英語学習』

      2017/06/04

 たまに大学の後輩や将来の進路に悩んでいる学生と話をしていて訊かれるのは、「どんな勉強をすれば翻訳者になれるんですか?」ということです。幅広い知識や、得意な専門分野を持っておくことなど、語り出せばきりが無いのですが、ここでは、翻訳者を目指したい人に向けた英語学習方法についてまとめたいと思います。

文法力、単語力は基本

 当たり前と言えば当たり前ですが、適切な文法力や単語力は、翻訳家としての基礎の能力です。特に文法力については、正しく構文を解釈できなければ全く意味の分からない訳文になってしまうこともある他、敢えて文法に従わない書き方がされている場合もあるため、非常に重要なものです。

 文法の勉強をこれから始めるなら、まずはセンター試験レベルのことから始めましょう。そのための参考書としては、問題集としてはネクステージ、参考書としてはフォレストがおすすめですが、僕個人としては大学受験での文法の勉強はネクステージだけで充分でした。

 大学受験レベルの文法力を身につけたら、次に細かい文法について学びましょう。そのために使えるのが、金子書房さんから出版されている英文法解説(これを執筆している時点では改訂3版)です。非常に細かい事柄まで扱っており、色々な構文を文法的に”解剖”してくれるため、大学受験のために覚えた文法事項について、「こういうことだったのか!」と胸のすく思いをすることでしょう。

 単語力については、様々な英文を読む上で見たことの無い単語をその都度覚えていく他ありません。どんなに勉強したところで、知らない単語やイディオムは決してなくならないのです。しかしだからこそ、常に知らない単語を1つでも減らすという気持ちを忘れないでください。

色々な長文を読む

 ある程度の文法力と単語力がついたら、次に色々な文章を読みましょう。これは、英語の文章のことでもありますが、日本語の文章のことでもあります。

 文章には、特定のパターンがあります。例えば、新聞の文体とネットの記事の文体、小説の文体とエッセイの文体では全く違うことがわかるはずです。色々な文章に触れることで、「英語でエッセイを書くときはこんな言い回しをするのか」ということであったり、逆に「日本語ではこういう言い回しが多いな」ということに気付いたりすることが重要なのです。

 また、出版されている綺麗な英文だけでなく、ネット上にある”推敲されていない”英文に触れることも重要です。ネイティブも英文を書く中でスペルミスや文法ミスをするのですが、そのミスを真に受けてしまうとよくありません。何がミスで何が意図的な表現なのかを見分けるためにも、綺麗で上品な英文だけではなく、幾分粗野な表現や文体にも慣れておきましょう。

名言やジョークなどの翻訳について考えてみる

 名文や名言、ジョークなどは、日本語、英語に限らず、洒落が効いていたり、日本語だから言えるような言い回し、英語だから言えるような言い回しがあったりします。そのような、言語の特性に依存した表現をどのように言い換えることができるかについて、常に考えるようにしましょう。

 例えば、「くまのプーさん」で有名なWinnie the Poohには、こんな台詞があります。

“Everybody says nothing is impossible, but I do nothing everyday.”

 この文章の英語としての面白さに気付き、それをどのようにすれば日本語で表現できるか。そうしたことに気を配れるようになれば、翻訳者としてまず一歩を踏み出すことができるようになるのです。

ことわざや格言、有名な引用についてアンテナを張っておく

 英語の表現として、ことわざや格言などをそのまま引用するのは陳腐であるとされる傾向にあります。そのため、英語を使いこなす人々は、そうしたフレーズを自分なりにもじって表現するのです。しかし、こうして生み出された新しい表現は、ことわざや格言の構文や文体を母体としていることから、元となっている表現を知らないと理解できない、といったことも少なくありません。

 そのため、英語での有名なことわざや格言、引用や決まり文句などについて、文学や映画などから常に収集できるようにアンテナを張っておくことが重要になってくるのです。

終わりに:翻訳者の在り方

 日本語と英語で言語がそもそも違う以上、英語で書かれている内容を日本語にすれば、どこかに齟齬が生じることは仕方が無いことです。その齟齬をどれくらい最小化できるかが翻訳者の腕の見せ所である、という人も居ます。

 また逆に、「原文よりも分かりやすい内容にすることを心がけている」という人も居て、そのために、大胆に原文を書き換えられるケースもあります。

 例えば、貴方が翻訳者だとして、次のような文章に出会ったらどのように訳すでしょう。

Don’t count your chickens before they are hatched.

 直訳すれば、「雛が孵る前に鶏を数えてはならない」ですが、これはことわざの一種であり、「捕らぬ狸の皮算用」のことです。果たしてこれを、直訳する方が良いのか、それとも「取らぬ短期の皮算用」に置き換えるのが良いのか。もしも貴方が翻訳者を目指すのなら、自分のスタンスをはっきりさせておくことも重要になるでしょう。

堂本秋次
実務翻訳者、プロマジシャン。英検1級、国連英検A級、TOEIC965を保有。大学時代は、ネイティブスピーカーの教授の指導のもと、言語学を専攻していた。医学、自然科学等を専門とする多芸多才な翻訳者。 詳しいプロフィール / 記事一覧

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