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【レビュー】英語で読む源氏物語:日本の古典文学を英訳して優美なリーディング教材にしました

      2016/04/04

 古典文学「源氏物語」を英語で楽しむことができるリーディング教材です。[上][下]の二巻構成です。「源氏物語画帖」が表紙にあしらわれ、優美さが感じられる一冊となっています。

英語で読む 源氏物語(上)

やさしい設計で「英訳:源氏物語」の世界へ

 本書は日本を代表する古典文学の名作を英語で楽しむというアプローチをしています。小説や物語を教材の題材にすると、原作を無視した突飛な英訳や日本語と英語のミスマッチの悪目立ちに目が行ってイライラすることもあります。

 しかし、本書の英訳は原作に忠実な上に、質・レベル・分かりやすさなども素晴らしい出来となっています。英訳の一文ごとが不必要に長くないので学習者に優しい設計になっていると感じました。一見「古文の英訳を読む」という行為は格調が高く難易度も高そうだ、と敬遠してしまいがちですが、本書はその疑念をいい意味で裏切ってくれるでしょう。

 和訳は原文ではなく、原文の雰囲気を残した現代語訳なので「古文の技法が分からない!」と嘆くこともありません。また、古文の醍醐味でもある「和歌」も多く登場するのですが、これも読んですぐに意味が分かるような現代語訳が付けられています。「和歌を英訳するとこのような感じになるのか!」という発見もできて知的好奇心をくすぐられます。

使い方次第でターゲットレベルが拡大

 源氏物語の特徴として原文自体に同じような単語や構文が複数回登場することがあります。したがって、読み進めていくうちにどんどん慣れていき学習のスピードや効率が上がっていくと考えられます。英単語は、TOEIC400から800点前半レベルが混在している印象を受けました。

読みやすい文量で小分けされた英文
英語で読む源氏物語_1S 英語で読む源氏物語_2S
グレン・サリバン『英語で読む源氏物語』

 読みやすい文量で小分けにされていますし、一文ごとが長すぎないので、「英語を幅広く勉強したい!」という高校生くらいから対象となるでしょう。難易度がある程度高い英単語や表現は注釈が付いているので安心です。

 かといって、上質な英文なことには変わりないため、辞書などに頼らず読めばかなり骨太な練習教材でしょう。吹き込みCDを利用して、レベルの高い英文のリスニングまたはディクテーション学習を行うことも可能です。使い方次第では、高校生向けにも上級者向けにもなるコストパフォーマンスの高い教材です。

 ただ、物語の流れや表現を楽しむことに重点を置いていることから、「なぜこの文章はこういう訳になるのか」などといった詳しい文法解説などがありません。そういった意味では、ある程度文法知識がある方が取り組みやすいと言えます。

英訳の流れも現代語訳の流れも両方大事に

 本書の構成は話の流れの区切りが良いところでそれぞれ9チャプターに分かれています。9チャプターの中にはそれぞれ手軽に読みやすい文量で10個ほどのパッセージで構成されていました。パッセージは全体を通すと86個あるので自分のペースで割り振りながら日々読み進めていくことができます。

本書の章立て(右側は下巻の章立て)
英語で読む源氏物語_3S 英語で読む源氏物語_4S
グレン・サリバン『英語で読む源氏物語』

 チャプターの構成としては、各チャプターは英訳のパッセージがまとめて続き、そのチャプター分の和訳がその後にまとめて続く形式です。したがって、「今読んだ英訳を次ページの和訳で確認する!」という意味合いは無く、「英文の物語を楽しんで、現代語訳を楽しむ」というコンセプトが感じられました。それぞれの物語の流れを崩すことのない構成ですので、慣れれば慣れるほど味わい深いものとなります。

日本語訳はチャプタ末にまとめて掲載
英語で読む源氏物語_5S 英語で読む源氏物語_6S
グレン・サリバン『英語で読む源氏物語』

 ところどころに見られる繊細なイラストも学習者の目を楽しませてくれます。源氏物語を読むにあたって、知っておきたい知識もまとめてくれているのもありがたいポイントと言えるでしょう。

源氏物語の優美で繊細な挿絵
英語で読む源氏物語_7S 英語で読む源氏物語_8S
グレン・サリバン『英語で読む源氏物語』

スピードは遅いが、意味を取るのがやや難しい付属CD

 吹き込み音声の速度を測定したところ、約115語/分でした。語学書の付属CDとしては、かなり遅い部類です。しかし、英文で使われている英単語は決して難易度の低いものばかりではないので、初級者の場合は聞き分け自体はできても、簡単には意味を取れない可能性があります。

英語で読む源氏物語_CD
グレン・サリバン『英語で読む源氏物語』付属CD(1枚組)

 ナレーターは女性で、ごく平均的な声の高さでハッキリと発音しているため、大変聞き取りやすいです。特に感情を込めていない、淡々とした朗読となっています。

 TOEIC600点くらいの学習者は、少し上のレベルの英文をリスニングできるので特に有用です。スピードが遅いので、リスニングだけでなくシャドーイング学習、ディクテーション学習にも使いやすいCDです。

英語も日本語も大好きになるはず

 日本の名作を読んで、英語表現の面白さや日本語の美しさを何度も再確認できる教材です。今の時代、いくら国際化が進んでも自国の文化を知って紹介できなければ海外の方に馬鹿にされてしまうそうです。本書では日本語・日本の良さが英語を通して勉強できるので、そのような観点から英語を学んでみたいと思っている人におすすめです。高校レベルの文法を一通り学習し終えた方であれば、読み進めることができるでしょう。

 ただ、読みやすさのため一文一文が不必要に長くなっていないので、格式ある英文小説のようなゴツゴツさを求める人には物足りないかもしれません。また、説明文や会話文など定番のリスニングに飽きてしまった人には、新しい切り口の骨太リスニング教材としても使えそうです。

まとめ

  • 質が高く読みやすい文量の英文が多く読める教材です。
  • 基本的な文法を押さえた中級者以上であれば読み進められます。
  • 日本語・英語ともに再発見が多い、知的な教材です。
  • 物語を題材とした上級者向けのディクテーション教材としても活用可能です。
諏訪部麻里子
国立大学医学部在学中。大学入試でセンター試験、二次試験をほぼ満点で通過した異次元級の英語力を持つ。医学の勉強のかたわら、さらなる高みを目指して英語の研鑽を積んでいる医学系女子。 詳しいプロフィール / 記事一覧

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